2011年10月2日日曜日

マスカレードホテル

作家生活25周年記念キャンペーンを展開中の東野圭吾今年三作目の作品。
集英社のサイトには「加賀恭一郎、湯川学に続く第三の男登場!」と華々しく
宣伝されているが、作品に出てくる「新田」刑事は、今一つ力不足な感じ。
ただ、これまでの二人とは違って、事件で知り合った山岸尚美との関係が
どうなってゆくか?という現在進行形の恋愛関係が描かれるのは、新しい
サービスなのかもしれないが・・・。
作品そのものは東野氏らしく、手堅くまとまっているが、ストーリーや謎解き
の仕掛けも、それほど目新しい感じはしない。


出来栄えとしては、「赤い指」クラスか?
私的には、味のある所轄の中年デカ、能勢刑事の方が気になる。
ぜひ、彼を主人公にしたスピンアウト版を望みたいところ。
東野氏の新境地になると思うのだが・・・。

2011年7月31日日曜日

競争の戦略

学生にしろ、社会人にしろ経営戦略論を学ぶつもりなら、避けて通れない一冊がこれ。
80年代に出版され、実際のビジネスの現場でもセンセーショナルを巻き起こした。
この本で展開された「五つの力」は今だ経営論の必須である。

大型商談を成約に導く「SPIN営業術」

日本の営業論は、営業の現場で偉業を成し遂げた”伝説の営業マン”による「武勇伝」
が多いのだが、アメリカは「営業」という職業が明確に成立しており、営業の本も機能
やテクニックに重きを置いたものが多い。
この本も、1980年代の後半に書かれた「営業テクニック論」の古典である。
SPINの意味は、以下の単語の頭文字をとったもの。
  状況(Situation)
  問題(Problem)
 示唆(Implication)
 解決(Need-paypff)
詳細は本書を読んで頂くしかないが、簡単に言えば、SPINに応じた「質問」を顧客に
投げることで大型商談を成約に導く確率が飛躍的に高まるという話だ。

現代の営業マンとしては、いわば”たしなみ”として読んでおくのはどうだろう。

営業プロセスのイノベーション~市場志向のコミュニケーション改革~

個人営業VSチーム営業、アウトプット管理VSプロセス管理、データベース営業VS
インターネット営業などなど、今だ精神論で語られることの多い営業の世界をロジカル
に分析した好著。
営業に求められている機能が変化しつつあり、新しい管理や発想による営業の再構築
を提案する。
ある意味、当たり前の意見だが「営業は企業のコミュニケーション改革である」という
コンセプトが重要だ。


「営業が変わる」~顧客関係のマネジメント~

営業マンとして就職した若者に分かりやすく「営業論」を説くという体裁をとった
営業論の本。
新書版の体裁ながら、内容は濃い。
特に「属人営業」と総括される”人間関係”を重視した「個人営業」のスタイル
から、”問題解決力”を強化した「組織営業」への転換を説く。
これにより「結果管理」から「プロセス管理」を重視する営業活動が実現できる。

展開されるロジックには概ね賛同できる。問題は実現の方法。
さて、どうするか・・・。

営業の本質

1995年に出版された本。
私は1997年に読んでいる。
16年前に出版された本なので、さすがにそこで紹介されている具体的な企業事例などは
少々色褪せてはいるが、「営業」というビジネス現場で最もホットな話題を初めて体系的に
分析してみせてくれたという意味で、今でも十分通用する。

私自身「酒が飲めない営業はダメだ!」「営業は理屈じゃない!」「気合を入れて売れ!」
などなど、意味不明の上司の言葉に閉口した日々を思い出した。

各章毎に著者が違う、論文集の体裁をとっている。
特に1章「営業のジレンマ」9章「営業の戦略と組織」10章「ワークショップ型営業の
可能性」は一読に値する。

プライスレス~必ず得する行動経済学の法則~

新聞か雑誌の連載コラムのようい57ものセクションで綴られた本。
「アンカリング」「プロスペクト理論」「最後通牒」などおもしろい概念が次々でてくるが
あまりに話が細切れで、読書のリズム感が最後まで掴めなかった。


私の理解力不足なのだろうか?
 

FREE~無料からお金を生み出す新戦略

「ロング・テール」の作者によるネットビジネス案内書の第二弾。
簡潔で分かりやすい文章で、ネット上での”無料化”の流れを説明してくれる。
議論については、いささか踏み込み足らずでは?と感じる部分もあるが、全体的に
よく整理されている。さすがは雑誌編集者だ。
”時代の変化”を感じさせてくれる一冊だ。
特に、以下の章は面白かった。
第 8章 非収益化
      グーグルは無料電話案内を行っているが、これを通じて膨大な音声
      データを集め、音声検索用のアルゴリズムの改良を進めているらしい。
      つまり、違う土俵で儲けている。(電話会社にはない発想)
第12章 非貨幣経済
       グーグル経済=注目経済(ページランクという発想)
第13章 ムダもいい
       潤沢さの可能性を突き詰めるには、コントロールしないことも必要。

歴史はベキ乗で動く

昔読んだマルクス系の思想を批判的に概説する本(多分、岩波新書だったと思うが)に、
「多くの兵隊が隊列を組んで行進しているとする。集団としての隊列の動きは予想可能
だが、個々の兵士の仕草は予想できない。」といった記述があり、わが意を得たりと
記憶している。
(つまり、マルクス理論は隊列を対象にするもので、個々の兵隊の動きは無理という話)

この本は、地震や山火事、株式市場の暴落、などが全て”べき乗則”と呼ばれる数式に
当てはまると言う。
最初に出てくるのが地震発生について調査した「グーテンベルク・リヒターの法則」。
エネルギーが2倍になると、その地震が発生する確率は四分の一になるというもの。
若干の誤差はあるものの、山火事の発生にもこの公式が当てはまり、人間が関与する
株式市場もこの例外ではないと論が進む。


もちろん、先のマルクスの話と同様、個々人の心の生業まで予想できる訳ではない
のだろうが、なんとも、刺激的な本だ。
ちなみに、副題は「種の絶滅から戦争までを読み解く「複雑系科学」とある。

SUPER NATURAL

幼い頃、母親を悪魔に殺された兄弟が”ハンター”(悪魔や化け物の狩人)として
活躍する様を描いたホラーアクションドラマ。シーズン5までリリースされている。
主人公兄弟が”イケメン”で若い女性中心に人気らしい。
最初の頃は、一話完結型でホラー要素たっぷりの話が続いていたが、途中から
どろどろしたホラー話は少なくなり、「悪魔」「地獄」「天使」など大きな話題を中心
としたストーリーに変化していっている。
おそらく、イケメン主人公の人気に合わせて脚本が書き換わったものと思われる。
よく考えれば、荒唐無稽な話なのだが、なんとなくずるずる見続ける魅力がある。



CLOSER(クローザー)

ロス市警重大犯罪課が舞台。
(殺人事件や誘拐事件など重大犯罪を専門に担当する、特殊捜査チーム)
CIAで尋問捜査のプロとして腕を磨いた主人公のブレンダ・リー・ジョンソンがロス市警で
重大犯罪課を率いて活躍するドラマ。

主人公は「よろしく!」が口癖のスイーツ好きの中年女性捜査官。
元不倫相手が上司、部下はクセのある連中ぞろい。彼氏(後に話の中で結婚するが)は
FBI捜査官。
海千山千の刑事たちは、ある日突然やって来て、自分勝手で猪突猛進のブレンダを敬遠
毛嫌いするが、次第に彼女の犯人逮捕にかける情熱と、卓越した尋問テクニックに傾倒
して行く・・・。

強烈な個性がぶつかり合うコミカルな設定と、最後は事件を”クローズ”させてゆく主人公
のクールな捜査手腕がおもしろい。
他の作品とは違い、ワンシーズン12~15話で完結する。
DVDは現在第5シーズンまで発売されている。
以下は第5シーズンDVD




2011年7月28日木曜日

ちょっとした話題3 大阪駅11番ホーム

最近のJR駅構内には、新幹線を除くと待合室が少ない気がする。
たとえば大阪駅。
御堂筋側の1階フロアーのトイレ前に数人が座れるベンチがるが、それ以外には
ホームのベンチも含め座れる施設があまり目に付かない。
通りすがりの旅人には休憩施設は不要とのことか?
ところで、こんな大阪駅にもちゃんとした休憩室があるのをご存じだろうか?
場所は、北陸方面に向かうサンダーバードなどが発着する11番線ホーム。
ホームの中ごろにもゆったりしたベンチがあるが、ホームの端にかなりしっかり
した待合室が存在する。
冷暖房も完備されているし、列車の動きがない時間帯はよく空いていて、ちょっと
休憩するには最適な空間。
見るところ、すでに何名かの休憩の常連さんもいらっしゃるようで・・・。


11番線の中央付近のベンチ

ホーム端にある待合室。テレビもある。かなり豪華な造り。

2011年7月21日木曜日

グーグル秘録

ジャーナリストが、多数のインタビューを通じて書き上げたグーグルの自叙伝。

本当に頭のいい連中が次から次に新しいチャレンジを生み出し、それを支える
人脈と出資者が存在するアメリカIT業界のすごさが伝わってくる。
このアメリカ社会のバックボーンは、グーグル以上に驚異的な存在だ!

ジャーナリストらしい、読みやすい文章構成で面白い。
500ページを超える大作だが、一気に読んでしまった。
ほんとうに、アメリカのポテンシャルはすごい。

ハチはなぜ大量死したのか?

2009年3月に書いた感想文。最近、本書が文庫本化されたので、掲載する。

数年前から世界中で蜜蜂のコロニーが崩壊する現象が発生しており、数億の単位で
蜜蜂がいなくなっているらしい。
明確な原因は未だ不明ではあるが、ダニや伝染病に加え、農薬の複合汚染も問題視
されているとのこと。
高度な集団生活を行う蜜蜂が、その拠り所である社会を失ってゆく過程を想像すると
痛々しい。
さらに、蜜蜂の崩壊は、受粉をハチに依存する果物など多くの食料の生産に、多大な
影響を与えていることを教えてくれる。

店先で販売している蜂蜜をよく見れば、いろいろな国から輸入されている現状に驚く。
かなりの紙面を割いて展開されるコロニー崩壊の謎解きは、いま一つシャープさを欠き、
少々食傷気味となるが、全体としては”考えさせる”良作。

グーグルで必要なことはみんなソニーが教えてくれた

ソニーで22年、その後グーグルジャパンの社長を3年勤めた辻野晃一郎氏の著書。

そういう著者だから、会えばそれなりの人物なのだと思う。
ただ、彼の周りの人が大物過ぎて(あるいは反対に小さすぎて)彼自身のことがよく
わからない。
大物は盛田昭夫、カルロス・ゴーン、ラリー・ペイジ。小物は社内政治や自己保身
汲々とする普通のソニーマンだ。
(盛田氏の自叙伝等を読み、私が想像していたソニーマンのイメージではないが・・。)
最終的に目を引いたのはグーグルの社風(第8章)、クラウド(第9章)、ネット時代の
仕事のやり方(第11章)を語った部分か。


知性に自信があり、ビジネスに野望がある若い人は読んで損はないと思う。
 

選択の科学

起承転結で話が進む訳ではなく、各章ごとに「選択」に関するテーマと、それに関連する
心理テストの内容と結果が表示される。
テーマは概ねおもしろく、テスト結果も興味深い。
ただ、論理の展開を通じ、著者の描く”高み”に連れて行かれるわけではなく、そのへん
が物足りない。
”うんちく”は興味深いが「だからどうなるの?」となってしまう・・・。


以下は、本書の語りの一部。興味がそそられると思うが、いかがか?


選択は生物の本能である。
なぜ満ち足りた環境にもかかわらず動物園の動物の平均寿命は短いのか?
なぜ高ストレスのはずの社長の平均寿命は長いのか?
私たちが選択と呼んでいるものは「自分自身や自分の置かれた環境を自分の
力で変える活動」のことだ。
選択するにはまず「自分の力で変えられる」という認識を持たなくてはならない。
野生のアフリカ象の平均寿命は56歳だが、動物園で生まれた象は17歳。


フロムの2つの自由「〇〇からの自由」「〇〇する自由」
十種類のもチューインガムはいらない。(共産圏の考え方)


余談だが「LEI TO ME」のモデルが実在する人がいることが記載されていた。驚きだ!

フェイスブック(若き天才の野望)

映画化もされ、企業価値は500億ドルともいわれる「フェイスブック」の成り立ちを語った本。
創立者マーク・ザッカーバーグを始め、多くの関係者ヘのインタビューを通して描かれた読み
応えのある一冊。まさに"武勇伝”だ。


それにしても一番驚かされるのは、大学生が生み出した出来たての”アイデア”にそれなり
の資金を供給する人がいること。彼らのリスクテイクと目利きには感心するしかない。
多分、日本では絶対に起こり得ないドリームだと痛感する。
小さなソフトハウスで営業の仕事に携わっていたことのある私の経験から言えば、日本の
大手べンダー(わかりやすく言えば、NEC、日立、富士通、あるいはNTTなど)系の会社
と取引口座を開くには「人品卑しからず」が証明された会社でないと、ほぼ困難。
どんなに優れたアイデアを持っていても、「実績」のない会社では門前払いとなる。
第一「優れたアイデア」を認め、リスクを取ってでも勝負しようとする人物が、大手ベンダー
のサラリーマンの中に何人いるだろうか?

最近は、IT業界で成功した著名な経営者などが、有望なベンチャー企業に出資するケース
もあると聞くので、少しは希望が持てるのだろうか・・・。

最後に一言。
アメリカの良質なノンフィクション物に総じて言えるのは、インタビュー他に基づいた圧倒的な
取材量(つまりは事実の量!)と、冷静な語り口。
筆者の感想や思い入れを語るのではなく、あくまでも積み重ねた”リアリティ”の重さが読者
に迫ってくる。
おもしろい!

2011年7月11日月曜日

ちょっとした話題2 大阪府立中之島図書館

大阪市役所の東隣に位置する府立図書館。

地下鉄御堂筋線の淀屋橋駅、あるいは京阪淀屋橋、なにわ橋駅から徒歩数分。
梅田からも20分掛ければ歩いて行ける。
1904年に開館したそうで、建物は国の重要文化財に指定されているそうだ。
2階部分に相当する正面玄関は現在使用されておらず、玄関脇の通路から
1階部分の受付を通って入館する。


建物内部は明治の香りが残る、まさに”図書館”といったクラッシックな落ち着いた
雰囲気で、観光名所にいるような錯覚を覚える。
ただ、古い建物をそのまま使用しているため、各セクションの部屋が細切れ
手狭感があるのは歪めない。
大学の現代的な巨大図書館を見慣れた人からすれば驚きの狭さかもしれないが、
その分、他では味わえないノスタルジックな異次元空間を体験できる。

平日の閲覧コーナーはそれほど込み合っている訳でもなく、快適に使用できる。
空調が入っている自習室は概ね満席に近い状態のようだ。
隣のデジタル自習室も、基本は2時間単位の使用条件となっているが、待ちが
出るのはまれなようで、少なくとも半日程度は連続使用が可能。
自分のパソコンの持ち込みも可能で、図書館の無線LANに接続できる。

もちろん、館内は飲食禁止だが、1階に休憩コーナーが用意されており受験生
は終日利用することもできそうだ。

なお、通常の閲覧コーナーには、競馬新聞を広げているおじさんや、ただただ
昼寝を続けるサラリーマンなど、少々場違いな利用者も散見されることを付け
加えておく。

 図書館正面


図書館内部

2011年6月24日金曜日

⑥真夏の方程式(2011/06)

3年ぶりのガリレオシリーズ。
「容疑Xの献身」「新参者」と、事件の謎解きのプロットに人間関係をうまく絡み合わせる
のは、最近の東野氏の得意技となりつつつあるが、この作品もその一つになるだろう。

むしろ今回は、湯川と内海や草薙は別々に捜査にあたるという設定で、直接的な殺人
方法の謎解き自体はそれ程おもしろい訳でもない。
ただ、「動機」に結びつく、ある家族と一人の男の切ない過去がうまく描かれている。
若干「結局、この人物はなんだったのか?」と思ってしまう脇役が少々いたけれど・・・。

新作なので、ネタばらしはこれくらいにしておこう。
あとは、本を買って、各自楽しんでください。
 

⑤ガリレオの苦悩(2008/10)

こちらは短編集。
テレビドラマのヒットに答え、ガリレオブームを確たるもにするように、「聖女の救済」
と同時刊行された。
もちろん、一部のエピソードがテレビでスペシャル番組として放映された。
この流れが、福山のNHK大河ドラマ主演の流れを作ったのかもしれない。

ガリレオシリーズは、どうしても映像の方が記憶に残る傾向にある。


④聖女の救済(2008/10)

テレビで柴咲コウが演じた内海薫が、小説の世界に逆デビューした。
しかも、「ガリレオの苦悩」と同時刊行された。
テレビドラマ、映画とタイアップされた仕掛けである。
「容疑者X・・」ほどの迫力はないものの”鉄板”の出来ではある。

③容疑者Xの献身(2005/08)

映画化もされた、シリーズ最高傑作。
アパートの隣に住む、愛してやまない憧れの女性が犯した罪を、幾重もの仕掛けを
使い隠ぺいを図る高校教師。
かれは大学時代の湯川の同級生であり、湯川も一目置く、若き数学者として将来
を嘱望されていたのだが・・・。

天才物理学者と数学者が繰り広げる頭脳戦は読み応え十分。
現代風の感性で、登場人物の人生感や哲学を語ることで推理小説という作品に、
さらに厚みを持たせることに成功した傑作だと思う。

映画も面白かった。