2011年6月24日金曜日

⑥真夏の方程式(2011/06)

3年ぶりのガリレオシリーズ。
「容疑Xの献身」「新参者」と、事件の謎解きのプロットに人間関係をうまく絡み合わせる
のは、最近の東野氏の得意技となりつつつあるが、この作品もその一つになるだろう。

むしろ今回は、湯川と内海や草薙は別々に捜査にあたるという設定で、直接的な殺人
方法の謎解き自体はそれ程おもしろい訳でもない。
ただ、「動機」に結びつく、ある家族と一人の男の切ない過去がうまく描かれている。
若干「結局、この人物はなんだったのか?」と思ってしまう脇役が少々いたけれど・・・。

新作なので、ネタばらしはこれくらいにしておこう。
あとは、本を買って、各自楽しんでください。
 

⑤ガリレオの苦悩(2008/10)

こちらは短編集。
テレビドラマのヒットに答え、ガリレオブームを確たるもにするように、「聖女の救済」
と同時刊行された。
もちろん、一部のエピソードがテレビでスペシャル番組として放映された。
この流れが、福山のNHK大河ドラマ主演の流れを作ったのかもしれない。

ガリレオシリーズは、どうしても映像の方が記憶に残る傾向にある。


④聖女の救済(2008/10)

テレビで柴咲コウが演じた内海薫が、小説の世界に逆デビューした。
しかも、「ガリレオの苦悩」と同時刊行された。
テレビドラマ、映画とタイアップされた仕掛けである。
「容疑者X・・」ほどの迫力はないものの”鉄板”の出来ではある。

③容疑者Xの献身(2005/08)

映画化もされた、シリーズ最高傑作。
アパートの隣に住む、愛してやまない憧れの女性が犯した罪を、幾重もの仕掛けを
使い隠ぺいを図る高校教師。
かれは大学時代の湯川の同級生であり、湯川も一目置く、若き数学者として将来
を嘱望されていたのだが・・・。

天才物理学者と数学者が繰り広げる頭脳戦は読み応え十分。
現代風の感性で、登場人物の人生感や哲学を語ることで推理小説という作品に、
さらに厚みを持たせることに成功した傑作だと思う。

映画も面白かった。



②予知夢(2000/06)

ガリレオシリーズ第二弾の短編集。
作者のお楽しみが続いている感じ。
表題作「予知夢」など、超常現象にいどむガリレオを楽しめる。

①探偵ガリレオ(1998/05)

元々作者は理工系の出身で、その知識が生かされた科学トリックをベースにした推理小説。
”ガリレオ”と呼ばれる天才物理学者湯川学が、冷徹な論理で難事件を解決してゆく。
特に、この第一作は短編集の体裁となっており、作者自身、さまざまな「理工系」のトリック
を楽しんでいる感じがして面白い。
 本作品は福山雅治主演でテレビドラマ化されブレークした。
ちなみに、テレビでは柴咲コウが女刑事としてコンビを組むが、小説では大学時代の同級生
草薙刑事が相手役になっている。


また、東野氏の中では、ガリレオのモデルは俳優の佐野史郎であったことが、文庫本の
解説で紹介されている。福山雅治を抜擢したプロデューサーの勝利!
また、福山雅治が演奏する主題歌「.知覚と快楽の螺旋」がまたクール!なわけで!
曲名そのものが出色の出来である! 



梅田の本屋⑧続編 STANDARD BOOKSTORE

こちらは、「ルクア」より一足先にオープンした「ヌー茶屋町+」の2階にある
本屋+コーヒーショップ+雑貨のお店。心斎橋に本店があるらしい。
ある意味、本屋ではない。若者が集う、お洒落なショップ街の本屋はさもありなん!
といったコンセプト重視の店。多分、お洒落でクレバーな”こだわり派”をイメージ
したコーヒーショップの延長に”本”があったということなのだろう。

こういう店もいいけれど、例えばヨーロッパの普通の街にある、だけど100年前
から営業してるといった、アンティークな感じの本屋もあっていいような気がする。
品揃えは・・・?!いろいろ想像するだけで楽しいかも。

写真は2011年4月29日オープン初日の「ヌー茶屋町+」の入り口

梅田の本屋⑦続編 三省堂

5月に開店した大阪駅ビル(ステーションシティというらしい!)「ルクア」の中に
三省堂書店があるということで行ってみた。
「ルクア」自体が20代30台の大人女子をターゲットにしたファッションビルであり、
そこに出店している三省堂も「本屋」というより、お洒落なショップ街の本棚みたい
な感じになっている。
店舗規模も小振りで、品揃も一般的。隣接する雑貨感覚の文房店と共鳴した、
明るくシンプルな雰囲気のお店という意外に際立った特徴はない。
周りを大型書店に囲まれており、失礼ながら本業で勝負するのは困難。
そこで、ルクアを訪れたお客さんの”立寄り買い”を期待しての出店と思われる。

2011年6月20日月曜日

柳井正/ユニクロ⑤ 柳井正の希望を持とう

2010年4月から朝日新聞の土曜版に連載されていたコラムをベースに書かれた新書版。
東日本大震災直後ということもあり、柳井氏が若きビジネスマンに向け「希望を持って
生きてゆく」ことの大切さを熱く語っている。

といっても、中身はこれまでの柳井氏の著書に記されている「原理原則」を若い人向けに
解説した体裁で、取り立てて目新しいことが書かれている訳ではない。
目新しくないからといって、重要ではないという意味ではない。
柳井氏はいつでも、基本に忠実な革新者なのだ。
もちろん、”旬”なポイントはいくつか存在する。
第2章、第5章ではここ数年のユニクロの基本戦略でもある「国際化」を熱く語られているし
第4章の「基礎的仕事力身に着け方」で指摘されている「現場」重視の姿勢と「人脈」に関
する意見は、これまでも何度も語られているが、都度ユニクロの”旬”を感じる卓見である。

ところで、この本にはとても重要な一文が含まれている。
小島健輔氏の著書を意識された訳ではないのだろうが、ユニクロがファストファッション
代表のように扱われる風潮に対し、第3章では「ユニクロはファストファッションではない!」
と、ユニクロの物作りの根本思想を熱く語っておられる部分だ。

ファストファッション(ZARA,H&M,フォーエバー21)は流行という情報を売っているのであり、
いかに早く流行の服を生産し、販売するかを最重視している。
これに対しユニクロは、これらブランドの十分一以下のアイテム数で、一点当たり数百万
から1000万に達する数量を生産、販売している。
世界中の人が欲しがる、品質に責任を持った商品でないと1000万点売ることはできない。


詳しくは本書を読んで頂けれ良いが、柳井氏の哲学が、ユニクロのプライドが込められた
一文になっていると感じた。

柳井正/ユニクロ④ ユニクロ症候群~退化する消費文明~

昔からよく読んでいるファッション評論家小島謙介氏の本。
ユニクロがなければ書かれることのなかった本だと思うので、ユニクロのカテゴリーで紹介
させてもらう。
小島氏は、ともすれば感性という都合のよい言葉で話がまとまってしまうファッション業界を
独自の分析手法を用いて科学的解説してくれる数少ない評論家。
「ユニクロ栄えて国滅ぶ」とはなかなかセンセーショナルな表現だ。
いささか独善的な所もあるが総じて面白かった。
また、効果的な数字の使い方は、別の意味で感心する。


さて、以下は本書に出てくる「デジタル世代」を定義した一文。
デジタル世代とは、デジタルに圧縮された音楽や映像、ファストフードで育ったおおむね
アンダー37歳(73年以降生まれ)の若者層で「ipod」や「ウォークマン」で圧縮された音楽を
聴き、デジカメやケータイの「写メ」で圧縮された映像を見る、デジタル化以前の感性豊か
なアナログ文明を体験せずに育った「完成圧縮世代」と定義される。・・・・
デジタル世代はアナログでしか分からない高品質やデリケートな風合いを知らず、必要とも
していない。
ゆえに品質や風合いに難があっても「速い安いトレンディ」なファストファッションが爆発的に
受け入れられ、品質や風合いまで見えないケータイ画面でファッション商品を買えてしまう。
品質や風合いが不要な分、トレンドデザインの鮮度だけ追って価格は安くなる。
そんな若年世代マーケットの退化で低価格化が加速され、衣料品市場が縮小しているのだ。


若い世代には異論もあるだろうし、いささかセンセーショナルな表現ではあるが”言いえて妙”
な意見でもある。

柳井正/ユニクロ③ 「柳井正 未来の歩き方」

柳井氏の本ではない。
大塚英樹氏という作者が柳井氏に密着取材した内容をまとめた本。
取材というフィルターを通すことで、社外に人間には柳井氏の思想がよりわかりやすく
なるのかもしれない。
「成功は一日で捨て去れ」の参考書的な本ということで紹介しておく。
内容も平易で読みやすい。

柳井正/ユニクロ② 成功は一日で捨て去れ

前著「一勝九敗」に続く、柳井氏の著書。
フリースブーム後、外部から若い経営エリートを登用し経営陣の刷新を図るが、大企業病
蔓延を感じた柳井氏は彼らに代わり再び社長に返り咲き、経営の舵取りを再開する。
そして「ヒートテック」「ブラトップ」と大型ヒットを飛ばし、見事な第二創業を成し遂げる・・・。

本書は直近数年のユニクロ社内向けのメッセージを中心にこの第二創業のプロセス
つぶさに語った本。
「安定志向が会社を滅ぼす」「成功は一日で捨て去れ」ある意味、偏執狂的なまでの
柳井氏の経営に掛ける情熱がほとばしってくる。

個人的には、経営のプロとして採用した若きエリート達を持ってしても”創業者の器”を
超えることできなかった顛末を、柳井氏自身が再建して行く、そのプロセスに感じ入った。

柳井正/ユニクロ① 一勝九敗

私は文庫本で読んだが、元は2003年に柳井氏が創業20年の節目にと出版したそうだ。
2001年のフリースブームに乗り、ユニクロが頂点を極めるまでの回顧録といった内容。
柳井氏自身は回顧録など書いたつもりはなく、ユニクロ社員が共有すべき創業以来の
価値観を確認するための著作とのことだ。

90年代早々のユニクロは、安かろう悪かろうの店という印象だった。
ただ、フリースが爆発的にヒットした頃のユニクロはまったく違う会社になっていた。
「洋服はファッション性のある工業製品」というコンセプトを具現化した店は、当時、衣料品
を扱う会社に勤めていた私には目から鱗の衝撃だった。
1980年後半から、アジアの安価な労働力を背景に労働集約型産業であった衣料品は
大きく海外生産にシフトしていった。その中で”大量生産”の威力は頭では理解していても、
リスクを張って商品を万の単位で発注するのは難しい。
「大量に同じものを作れば、原料や製造費は劇的に下がり逆に品質は安定して行く」
それを、ユニクロはまさに基本に忠実にやってのけた。
商品よりもその徹底した物作りの仕組みに圧倒された。
そういう個人的な感慨も含め、柳井氏の言動にはずっと注目している。

また、柳井氏は猛烈な勉強家でもあるそうで、経営書を読み漁っているとのこと。
経営学という論理を実際のビジネスに生かそうとする、日本では数少ない経営者でもある。
現時点で、日本を代表する有数の経営者ではあるが、それでも多くの失敗を積み重ねてきた
ユニクロの軌跡はおもしろい。

2011年6月17日金曜日

ちょっとした話題1 「大阪市近郊区間」
















JRの「大阪近郊区間」を知ってますか?
簡単に言うと、指定された区間については、目的地まで複数の経路がある場合
一定の条件下でどのルートを通ってもOKというルール。
つまり、近郊区間内なら隣の駅までの運賃で超遠回りしても問題なしということになる。
守るべき条件は、以下の通り。
 ・当日限りの片道乗車券であること。
 ・同じ駅を重複して通過しないこと。
 ・途中下車できないこと。
 ・新幹線の利用は、原則含まれない。
そこで、ヒマに任せて次のような大回りを実験してみました。
東海道線の「茨木」から「京都」までの乗車券(450円)を購入。
実際の乗車ルートは以下の通り。
 茨木⇒大阪(JR京都線)
 大阪⇒天王寺(環状線)
 天王寺⇒日根野⇒和歌山(阪和線)
 和歌山⇒高田(和歌山線)
 高田⇒奈良(万葉まほろば線)
 奈良⇒京都(奈良線)
おおよそ6時間の長旅になりました!

①9:55発の紀州路快速に乗車して大阪を出発!
  列車の半分は日根野で関西空港に向かうのでご注意を!車内はこんな感じです。
















②のんびりした景観を楽しむうちに和歌山に到着。(11:30)


 
 
 
 
 
 
 
 
 





③和歌山駅ホームのこじんまりした待合室で、簡単な昼食。
 
 
 
 
 











④11:55 早々に、今度は和歌山線~万葉まほろば線で奈良に向かいます。
















⑤途中の橋本駅
















⑥高田駅。ここから万葉まほろば線
















⑦14:55 やっと奈良駅に到着!






























⑧15:23発の各駅停車でいよいよ京都へ!
  車内に今日の全工程の路線図がありました。
















⑨ついに京都到着。時刻は16:39
















⑩京都駅は、贅沢な空間がたくさんあります!






























大阪を出て約6時間の長旅でしたが、450円でこれだけ楽しめるとは!?
本当にヒマなら試してみてください。
この経路、正しかったのかなぁ・・・?

2011年6月16日木曜日

麒麟の翼(2011/03)

2011年6月時点で、シリーズ最新作。
再び日本橋が事件の舞台となる。
ただ、新参者に続く作品ということで期待のハードルが高かった分
私としては、普通の推理小説の域を出ず少々物足りなかった。
個人的に、1992年から1994年の3年間、日本橋に勤めていた経緯が
あり、作品に出てくる公園や橋にも共鳴するのだが・・・。
それだけ新参者の出来がいいということだろ。


新参者(2009/09)

テレビで連続ドラマ化され、加賀シリーズを一躍有名にした一作。
東京は人形町の下町人情と加賀恭一郎の推理が絡まりあった、
新しいスタイルの推理小説といった趣がある。
それにしても、下町商店街の商品をストーリーに絡めて行く手法
はかなり最高だ!文句なくシリーズ最高傑作と思う。
ちなみに、テレビドラマの主演は阿部寛。

赤い指(2006/07)

作品としては「新参者」より古いのだが、新参者のヒットを受けてこちらも後から
映像化された。
認知症、引きこもり、家族の崩壊・・・。
犯人の家庭の複雑な背景と共に加賀恭一郎と父親の一風変わった親子愛が
平行して描かれる。なかなかおもしろい一作。
加賀恭一郎シリーズだけでなく、東野氏の作品全般に言えるのだが、この時期
ぐらいから、事件にまつわる人間関係を見つめる視点に深い味わいが出てきた
ような気がするのは、私だけだろうか?